ファミリーコンステレーション(家族の座)の世界
「ファミリーコンステレーション」という言葉を聞いたことはありますか?
日本語では「家族の座」と呼ばれており、家族を扱うセラピーの一種です。
2016年、2週間かけて海外でグループを取材してきました。
「ファミリーコンステレーション」の成り立ち、「ファミリーコンステレーション」が目指すもの、参加者に何が起こるのか、紐解いてみたいと思います。
このページの目次
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代役によって家族の関係性を解明するグループセラピー
「ファミリーコンステレーション」は、通常、ファシリテーター、主に働きかけを受けるクライアント、1人〜数名のグループで成立します。
グループのメンバーは、クライアントのために、家族や人間関係、その他の問題に関わる「代役」となり、クライアントにより部屋の中に配置されます。
代役には「中心に定まる(センタリング)」が必要
代役になった人は、「中心に定まる」ことを求められます。 「中心に定まる」というのは、英語で言うと「センタリング」。 頭で考えたり、他人に影響されることなく「内側から湧き上がる衝動や感覚に従う」といった意味になります。
代役をしている人がしっかり「中心に定まる」ことができると、不思議なことにクライアントの関係性の中で起こっていることを自然に感じ、動き始めます。そして、部屋の中を動いたり、誰かに近寄ったり、暑さや寒さ、悲しみや喜びなどの感情を感じ始めます。
グループ全体が問題解決に流れていく
ファシリテーターの主導の下、代役同士にどんな関係性が発生しているか、関係性をより自然な形に流れさせ、問題を解決するにはどうすれば良いのか、クライアントはじっくりと観察します。
亡くなってしまった人、会うことのできない人にまつわることや、直接話すのが難しい話題も、この「代役」というシステムによってしっかり観察することができます。
また、セッションの最後には、本人役の代役とクライアントが入れ替わることもあります。そうすることで、代役の中で起こった問題解決への流れを本人もより深く実感することができます。
グループセッションの場合、代役となるメンバー、クライアントとなるメンバーは互いに交代しながら、グループ全体が大きく流れていきます。
ファミリーコンステレーションでアプローチできる問題
人間関係での悩みや、あるいは繰り返される健康を脅かす病気、事故、嗜癖などの問題にアプローチすることができると言われています。
また、この代役の仕組みは、「システミックコンステレーション」という名前で、家族以外の関係性(会社、組織など)で生じた問題の解決や理解にも使われています。
ファミリーコンステレーションとバート・ヘリンガー
ファミリーコンステレーションを現在の形に確立したのは、ドイツ人セラピスト、バート・ヘリンガー氏です。(写真はwikipediaより。)
へリンガー氏はカソリックの宣教師でしたが、その後原初療法(プライマル・セラピー)を学び、セラピストとなります。その後、家族療法であるファミリーコンステレーションを独自の形で発展させました。
へリンガー氏自身はファミリーコンステレーションの創始者ではありませんが、現在世界で行われているファミリーコンステレーションのほとんどが、へリンガー氏の洞察に基づくものとなっています。
ヘリンガー氏のファミリーコンステレーションと「西洋的なセラピー」の違い
バート・ヘリンガー氏が最初に学んだセラピーである「原初療法」は、「長く抑制された幼い頃の心の痛みを、繰り返しさかのぼり、感じ、表現することが必要であるとする精神病の治療方法」wikipediaよりです。オノ・ヨーコやジョン・レノンもこのセラピーを試したことで有名です。
いわゆる1960年代以降「人間性回復運動」のもと、西洋で流行した心理セラピーの一つです。
しかし、ヘリンガー氏によるファミリーコンステレーションは、こうした心理セラピーとは様々な点で異なります。
「バート・ヘリンガーの脱サイコセラピー論」
ヘリンガー氏は、この本の中で、既存の心理セラピーとファミリーコンステレーションのアプローチの違いについて詳しく述べています。
(元々、「バートヘリンガーの脱サイコセラピー論」というタイトルの本だったのが、2016年に復刻されたものです)。
グループセラピーだが、エンカウンターではない
グループセラピーには「その場にいた人たちの出会いやぶつかり合いがヒーリングにつながる」という考え方をするものがあります。
これを「エンカウンター」と言い、1960年代以降のセラピーグループでよく採用されてきました。
ファミリーコンステレーションはグループでメンバーに働きかけますが、こうした「エンカウンター」のセラピーではありません。
むしろ一人一人がエゴをなくして溶け合い、大いなるものに敬意を表しながら、ある時は代役を果たすことで、ある時はコンステレーションの中心として、起こるべきヒーリングを受け取る、というグループです。
それは火を囲んで歌い踊っていた時代に行われていたであろう、シャーマンによるヒーリングサークルにより近いものと言えるかもしれません。
過去にさかのぼり、起こったことを感じるが、感情を発散するものではない
原初療法(プライマルセラピー)では、幼児期の痛みをさかのぼって感じ、言いたかったことを叫んだりします。
プライマルセラピーを受けたジョン・レノンが「Mother」という歌を作ったのは有名ですが、この歌には、Mama, don't go Daddy, come home(お母さん行かないで、お父さん戻って来て)という叫びが入っています。
ファミリーコンステレーションでは、代理人、あるいは本人が、ファシリテーターの指示に従い、ヒーリングのカギになる言葉を口にすることはありますが、ただ痛みを表現するために叫ぶ、といったことは行われません。
「システム論的な視点」という見方は一見非常に保守的である
ファミリーコンステレーションでは、関係性は一定の法則に則って動くシステムである、という見方をします。
この「法則」は、バート・ヘリンガー氏はじめ、誰かが考え出したものではなく、この「ファミリーコンステレーション」が世界中で行われていくうちに、一定の動きとして「発見」されて来たものです。
例えば、
- 年少者は年長者に従う
- 年少者は年長者から受け取る
- 男女の関係性では女性は男性に従う
といった法則があります。
もちろん、法則に当てはまらないケースもありますし、ファシリテーターは、法則自体よりもその場で起こっていることを観察してグループを進めていくことを優先する場合があります。
しかし、この法則自体は、非常に保守的です。特に1960年代以降のセラピーや社会運動の世界で否定、破壊しようとしてきたものでもあります。
私がファミリーコンステレーションの体験から学んだこと
私がファミリーコンステレーションに興味を持ったきっかけは、家族に対して疎外感を持っていたことです。 初めて自分のコンステレーションを開いた時、家族への見方が大きく変化したことを覚えています。
自分が理想として思い描く形ではなくても、家族からは愛情が流れていて、自分はそれを受け取っている…という実感を持てるようになりました。
2013年に一度日本で参加したのち、しばらく参加する機会はなく、このワークのことも忘れていました。 しかし、友人が自殺したことをきっかけに、インドで3日間のグループを受けることになりました。
それもまた強烈な体験でした。 亡くなった友人に対して直接働きかけることはしませんでしたが、この時は、「自分はつまらない人間で、好きなことをするのは怖い、できない」という感覚と向き合うことになりました。 それは日本人の女性、あるいは女性全体としての根深いプログラミングでした。
ヒーリングが起こる2つの流れ
ファミリーコンステレーションを受けるたびに、私は2つの流れを感じます。
1つは、前の世代から、家族から、生まれた環境から自然に流れて来る愛やサポートです。 そして、もう1つは、前の世代や環境から受け継がれている不必要なものです。
そして、ファミリーコンステレーションを通じて、必要なサポートを受け入れること・不必要なプログラミングを手放すこと、という2つの一見正反対の流れが起こっていることを感じます。
私が深く感じるのは、この「どちらか一つだけ」を手に入れることはできない、必要なサポートを受け入れることなくして、プログラミングを拒否することもできないし、その逆もまた難しいということです。
ファミリーコンステレーションに関わる人たちは、家族に何らかの不満を抱いていること、家族とうまくいっていない人が多いです。(私も例外ではありませんでした)。 そのため、「不必要なプログラミングを拒否すること」にだけフォーカスしていることが多いのです。 しかし、サポートを受け入れることにも、プログラミングを解除することにも、まずは、前の世代への理解と敬意、愛を認めることが必要となるのです。
瞑想者はファミリーコンステレーションに惹きつけられる
私は2006年以降瞑想を続けていますが、周りの瞑想をする人もファミリーコンステレーションに惹きつけられ、ファミリーコンステレーションを学ぶうちに瞑想を始めた人も多くいます。
瞑想には、社会から押し付けられた現代人としてのプログラミングを解除する働きがあります。
瞑想を続けている人は、意識のあり方を掘り下げていくと、自分一人では触れられない無意識層のプログラミングに興味を持つようになる傾向があるのだと思います。
ヘリンガー自身は、「脱サイコセラピー論」の中で「瞑想は人を救わない。普通の人生をきちんと生きることが大切」といったことも述べています。
私個人としては、この見方に反論できない部分はあります。私は今の時点で私の両親が私の年齢の時に生きていたやり方で生きてはいません。 おそらく、両親がその中で得た深みを獲得することはできていないと思います。
しかし、ファミリーコンステレーションに参加する中で感じたのは、瞑想をしている人は、起こっていることをしっかり見る・変える強さを持っている傾向がある、ということでした。
自分のコンステレーションが起こり、ファシリテーターがどんなに働きかけても、クライアントに起こっていることを見る力がなければ、システムの中にあるもつれをしっかりとほぐすことは難しいのです。「変化するよりも痛みに留まる方を選ぶ」人は多いのです。
海外でファミリーコンステレーションに参加する意義
2014年、2016年に、海外でファミリーコンステレーションに参加し、6カ国以上の人たちとコンステレーションを行いましたが、これも非常に面白い体験になりました。
私は日本で生まれ育ったのですが、生まれ育った国を離れることは自分の内面を自由にしてくれます。
同時に、生まれた国がいかに自分をサポートしているかを感じる機会にもなります。
私たちは、家族の上にさらに国というサポートを受けています。その代わりに、国の事情に翻弄されます。
例えば、日本であれば、地震、原発事故、そして第二次世界大戦への参画と敗戦などの事情があります。 海外でコンステレーションに参加すると、こうした力動をより強く感じることができる気がします。
国が違えば全ての事情が変わってきます。特にポルトガルのお国事情は非常に興味深かったです。
第二次世界大戦には参加しなかったものの、70年代まで独裁政権が続き、無血革命後はかつての植民地との内戦で疲弊し、大きな産業が育たなかったため、ユーロ圏の中でも経済的に苦戦…という波乱万丈ぶり。それらの出来事は未だ人々の人生、内面に影を落としています。
海外での通訳なしでのファミリーコンステレーションのグループ参加にはある程度の言語能力が必要ですが、チャレンジする価値はあると思いました。
また、2017年に入ってから、日本でもファミリーコンステレーションを受ける機会がありました。グループ内に自然に流れる親密さがあり、これもまた良い体験となりました。
ファミリーコンステレーションの本
日本で出版されている主なファミリーコンステレーションの本はこちらです。
バート・ヘリンガー氏に対して行われたインタビューを本にしたもの。 西洋の心理セラピーやその考え方とファミリーコンステレーションの違いを中心に、ヘリンガー氏が丁寧に応答しています。
ヘリンガー氏のファミリーコンステレーションに関する基本的な要素を実例を交えて解説。セラピスト向けの解説書として最も人気がある本を邦訳したものだそうです。
ヘリンガー氏によるワークショップの豊富な実例と解説が掲載されています。
ファミリーコンステレーションを受けるには?
日本、もしくは世界中でファミリーコンステレーションのグループが行われています。興味のある方はWEBサイトを参考にされることをおすすめします。
ヘリンガーインスティテュート(ドイツ他)
Osho International Meditation Resort(インド)
Osho Institute For Transformation(神戸)
ヘリンガーインスティテュートジャパン(札幌、全国)